マイケル・ムーアの「華氏119」の感想です。
「華氏911」と読んでしまいそうになりますが、作品のイラストはブッシュじゃなく、トランプとムーア。
「華氏911」は見てないけど、今度はトランプをネタにどんな突撃を……。
そんな気持ちで視聴。
で、予想を裏切られるわけです。
映像の多くを占めるのは、「米ミシガン州フリントの水道危機」と「民主党への失望」となっています。
なもんで、「見たいのは、それじゃなかったんだけど……」という気分に。
テレビでキモい発言をするトランプとか、集会の場で「出て行け」と言っていたシーンとか、過去にムーアと絡んだシーンとか出ますけど、そんなに長くない……。
圧倒的トランプ成分不足。面白いトランプ映像は、期待できません。
ヒトラーと重ね合わせ、独裁者の誕生は云々という流れは、よくある「権力者の批判手法」です。
現政権に対する「危機を煽る」という意味では、使いやすいのかもしれませんが、独裁者の誕生方法としてはスタンダードなのかっていう……。
よく「独裁者=ヒトラー」的なイメージで語るけど、今も世界にいる独裁者は、選挙で選ばれちゃいない。
例えば、北朝鮮は世襲。
建国者の金日成は、言ってしまえば米ソ対立、朝鮮戦争の産物。
担ぎ上げられた傀儡……以下略。
他の例を挙げようとしたら、その多くが死んでいたので、「今も世界にいる独裁者」を扱うのが面倒に……。
変わり種としては、世間的な独裁のイメージから離れるかもしれないけど、開発独裁のシンガポールも。
ここのリー・シェンロン首相だって、国父リー・クアンユーの息子。
国の成り立ちとしては、マレーシアからの独立。
何というか、「ヒトラーの再来」というのはネームバリュー的に用いやすいけど、歴史認識としては薄っぺらく感じませんか?
何というか、自分の意見が言いやすい材料として、使っているだけって感じで。
まるで、コーヒー推進派が「適度なコーヒーは、〇〇の予防になる」と言い、アンチ・コーヒー党が「コーヒーに含まれるカフェインは危険だ」と言うように、自分の主張に都合の良い箇所だけ見ているような……。
作品内の具体例を出せば、「トランプは強い独裁者が好き。だから、会いに行く」みたいなニュアンスで、米朝会談の映像が出るわけです。
でも、別に好きだから会ったわけじゃないでしょう。
好きな人に「ロケットマン」を連呼しますか?
「好きだから~」は、ジョークとしても、たちが悪いし、面白くもない……。
ちなみに、ボルトン氏に言わせれば、今までの大統領がしなかった米朝会談をすれば、大きな成果となるような発想だったとか……。
仮にそうだとしたら、好きとか関係ないよね。
まぁ、そんなことは重要じゃないのでしょう。
批判したい相手の批判できる要素を集めるだけ。
プロパガンダだと思ってみているので、それを悪いと思いません。
ただ、想像以上に つまらないと言っているだけ。
もっとパンチの効いた批判をしろよ、やるんなら……。
そう思えてしまったということ。
だって、肝心のトランプがぼやけているんだもの。
フリントの水道危機をメインにしたドキュメンタリーにすればよかった。
その解決に乗り出したオバマに失望した話を含め、民主党への失望をサブテーマにし、トランプ抜きの構成にした方が、まとまりのある映像になっただろうに……。
銃乱射を取り上げるなら、それ一本で。
サンダースを支持する人が多かったのに、ヒラリーになったこと。歪な民主主義を扱うなら、それ一本で。
言いたいのは、それだけ。
あちこちつまみ食いしているせいで、全体像がぼやけて、ただの愚痴になっている印象です。
* * *
あと、関係ないけど、共産圏の方が独裁者を生んでないかい?
右翼の先にも独裁があるけど、左翼の先にもある。
リベラルの究極って、共産主義じゃない?
みたいな考えが頭をよぎりました。